革新的がん医療実用化研究事業

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    分担研究者:東北大学 加藤幸成(代表:量⼦科学技術研究開発機構 東 達也
    令和4年度〜令和6年度
    課題名:悪性中皮腫を対象としたポドプラニン標的放射免疫療法実用化に向けた非臨床試験

    悪性中皮腫の新規治療法として、ポドプラニンを認識する抗体を放射性標識し、イメージング、β線治療、α線治療を可能とするポドプラニン標的放射免疫療法の実用化に向けた非臨床試験を実施する。具体的には、抗ポドプラニン抗体NZ-16のGMP製造、GLP安全性試験、放射性薬剤GMP製造法確立、薬物動態試験、治験プロトコル策定等を実施する。



    ポドプラニンは悪性中皮腫、脳腫瘍など様々ながんで高発現しており、悪性度の高い肉腫型でも高発現している。研究分担者の加藤は、腫瘍に発現しているポドプラニンは認識するが、正常組織に発現しているポドプラニンは認識しない腫瘍特異抗体NZ-1を開発した。この抗体を改変したNZ-12は、サルでの予備的な単回投与毒性試験で毒性を示さず、サルでのイメージングでも正常組織への集積は低くかった。本課題ではさらにFcを改良し安定性が増したNZ-16の実用化を目指す。この抗体が、世界で唯一のポドプラニン標的放射免疫療法として臨床利用できる抗体である。
    アカデミアにとって、バイオ医薬品の治験実施のハードルは非常に高い。しかし、放射免疫療法であれば、投与する物質量が微量(最大0.075mg/kg)であり、イメージングにより患者ごとに適切な投与量を決定できることから、アカデミア主体であっても治験の実現は可能である。従来のβ線治療核種に加え、末期の転移性前立腺がん患者でも完全奏効を達成したα線治療核種225Acが臨床利用できるようになり、核医学治療は難治性固形がんにも有効な治療法となった。研究代表者の東は、NZ-16でのβ線放出90Y標及びα線放出225Ac識体で高い治療効果を実証した。さらに、AMED CiCLEで、225Acの国内供給のための製造技術開発にも成功した。非臨床POCを取得済みで、α線治療の技術基盤もあることから、実現性は高い。
    中皮腫は、日本での罹患率は高くないが、中国を始めとする多くの途上国では患者の増加が見込まれている。また、脳腫瘍等への適応拡大の潜在性も有している。臨床POCが得られれば、企業に導出できる。

    悪性中皮腫は、2005年のクボタショックを契機に大きな社会問題となった。アスベスト使用制限が遅れたことが原因で、患者の救済に別途法律が制定されおり、その救済に国も積極的に関与している。悪性中皮腫、特に肉腫型には有効な治療法がなく、予後不良である。中皮腫の平均生存期間は9~12ヶ月であり、世界で年間4万人以上が死亡している。悪性胸膜中皮腫の約7割は進行がんであり、胸膜に沿ってびまん性に進展しており(図1)、一般的な放射線治療は困難である。外科手術も侵襲性が非常に高いため、高齢者が多い中皮腫には適応が難しい。現在使用されている化学療法、ペメドレキセド+シスプラチン併用化学療法の奏効率44%、延命効果は3ヶ月である。免疫チェックポイント阻害剤のPhase3試験の結果では、奏効率40%、延命効果7ヶ月であった。まだ、治療効果が高く侵襲性の低い新しい治療法の開発が強く求められている状況に変わりはない。非密封放射性同位元素で標識した抗体を用いる放射免疫療法は、放射線治療の一種の核医学治療であり、患者が自覚する有害事象がほとんど生じず、高齢者にも適した治療法である。日本での中皮腫の罹患率は900人/年の希少がんであり、企業主体での開発は望めないため、アカデミア主体での開発が必須である。



    転移など悪性度に関わっているポドプラニンは、悪性中皮腫にも高率で発現しており、悪性度の高い肉腫型でも発現率が高いため、有望な治療標的分子である。しかし、正常組織にも発現しており、副作用が懸念されていた。しかし、研究分担者の加藤は、正常組織に発現しているポドプラニンは認識せず、腫瘍に発現しているポドプラニンだけを認識する腫瘍特異的抗ポドプラニン抗体NZ-1の開発に成功した(図2;Kato, BBRC, 2006)。この抗体のエピトープ付近には、がん特異的糖鎖付加部位が複数存在する。例えば、Thr52, Thr55, Ser56などである。このがん特異的糖鎖付加部位を直接認識するわけではないが、この近辺の38-51 aaを認識しているため、がん特異的糖鎖がThr52, Thr55, Ser56に付加した場合に、38-51 aaの立体構造が変化すると考えられている。したがって、がん細胞のPDPNと正常細胞のPDPNでは38-51 aaの立体構造が異なり、これがNZ-16抗体のがん特異性のメカニズムだと考えられる。この抗体の腫瘍での陽性率は93%と従来の抗体と同等以上であり、がん治療に理想的な抗体と言える。ラット抗体であるNZ-1の免疫原性を下げるために、Fc等をヒト化した多種類の抗体を開発し、その中のNZ-12は安定性が高く、β線放出核種90Y標識NZ-12が中皮腫モデルマウスで高い治療効果を示した(Sudo, Cancer Sci, 2019)。予備的ではあるが、サル安全性試験では毒性は観察されず、サルでのイメージングでも正常臓器への高い集積はないことが示された。さらに抗体の改良を重ね、30以上の改変体の中で、NZ-16の親和性・安定性が最も高かった。90Y及び225Ac標識NZ-16はNZ-12よりも高い治療効果を示した(Sudo, Cells, 2021)。



    アカデミアにとって、バイオ医薬品の治験実施のハードルは非常に高い。しかし、放射免疫療法であれば、投与する物質量が微量(最大0.075mg/kg)のため製造コストが低い。また、イメージングにより患者ごとに適切な投与量を決定できるため、アカデミア主体であっても治験実施が可能である。従来のβ線治療核種では難治性固形がんの奏効率は高くはないが、α線治療核種225Acは、標識PSMA製剤により末期の転移性前立腺がん患者でも完全奏効を達成するほどの高い治療効果を示した(Kratochwil, JNM, 2016)。また、225Acと90Y製剤のタンデム治療(225Ac製剤の投与翌日に90Y製剤を投与する治療法)でさらに高い治療効果が報告された(Khreish, F. EJNMMI, 2019)。代表者の東は、AMED CiCLEで、225Acの国内供給のための製造技術開発に成功し、日本メジフィジックス社に技術導出した。医療用225Ac製造工場が建設され、稼働に向けて準備を進めている段階である。日本においても225Ac治療が実現する日は近いが、世界的にも現時点で承認された225Ac標識製剤が存在しない現状を考えれば、90Y及び225Acの両者の研究開発を行うべきであると考えている。

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